まるでシャボン日記

アラフィフぼっち女の悲喜こもごも

坂本脚本の真骨頂「大豆田とわ子と三人の元夫」

フジテレビ(関テレ)で放送中の「大豆田とわ子と三人の元夫」が面白い。

東京ラブストーリー「MOTHER」最高の離婚」「問題のあるレストラン」「カルテット」と、ず〜っと観続けている大好きな脚本家、坂元裕二さんの作品で、もちろん期待していたけど、やっぱりちょっと裏切られて、それがすごい。

坂元裕二らしくなくて逆に坂元裕二らしい、そんな作品のような気がしている。

 

フジテレビでよく書いている坂元裕二さんだけど、何かのインタビューで、「トレンディドラマが嫌だった」というようなことをおっしゃっていた記憶がある。

確かに、「最後の月9」として書いた「いつかこの恋を思い出して泣いてしまう」は、トレンディドラマの真逆をいく、底辺の若者たちを描いたものだった。

あれには、「さらば、月9、さらばトレンディドラマ」っていうメッセージを感じた。

世界の隅っこの人に寄り添いたいと、いつもおっしゃっている坂元裕二さん。

夢を叶えられなかった三流音楽家たちを描いた「カルテット」も、その流れだったと思う。

 

ところが、「大豆田とわ子〜」ときたらどうだろう。

主人公たちは、みんな才能があり、成功した都会人たちだ。

とわ子は、建築会社の女社長だし、1番目の夫は奥渋あたりで洒落たバーを経営し、2番目の夫はファッションカメラマン、3番目の夫はイケメン弁護士。

それぞれの職場も部屋も、ハイセンス。家具や雑貨も素敵。

当然、ファッションだって洗練されたものばかり。

フジテレビらしいトレンディドラマの王道のような演出…

あれ? 坂本さん、トレンディドラマに帰ってきましたか??という感じ。

 

なんでだろ?

と、疑問に思った。

それで、これはもちろん憶測なのだけど…

この変化は、あの悲しい芸能界の死によるものなんじゃないだろうか、と思った。

 

衝撃的だった有名俳優さんらの死。

あの時知ったのは、どんなに美しく才能があって、誰からも愛され成功した人でも、死んでしまいたくなるような苦しみを持っているのだ、ということだった。

そして、私たちは普段、そういう人たちの苦しみに、あまりにも無頓着だということだ。

 

もし、彼らが、飲み屋とかで、「死にたいよ」なんて言ったとしよう。

聞かされた友人は、取り合うだろうか?

もし私が友人だったら、きっと本当に能天気に、「何言ってんのよ」とか言うだろう。

あなたの悩みなんて、そんなの大したことあるはずない。

愚痴りたいならいいけどさ。

そのくらいにしか思わないだろうと思うのだ。

 

だけど、取るに足らないと思われた方はどうだろう。

ヘラヘラ笑って、(ああ、仕事でも笑って)、「いやいや、ごめん、落ち込むこともあってさ」なんて、大したことない風に笑って、笑って、笑って、そして孤独になって、追い詰まっていくのじゃないだろうか。

 

まさかの結末に、日本中の人が「気づかずにごめんなさい」という気持ちになったように思う。

少なくとも私は、あの時、そんな風に感じていた。

芸能界の人たちや制作現場の人たちは、なおさらだったんじゃないだろうか。

 

「大豆田とわ子〜」の第2話は、3番目の夫・中村慎森(岡田将生)の話だった。

弁護士でイケメンの彼は、オフィスで温泉まんじゅうを食べているみんなに、「お土産って意味あります?」とか言ってしまう嫌なやつだ。

ビジネスホテルに暮らし、冷たい夕飯ばかりで友達もいないけど、賢く合理的に生きていて、一人で大丈夫そうだ。

だけど…

 

洗濯機でご飯が炊けますか?
洗濯機で髪が乾かせますか?
人間にもそれぞれ機能がある
ボクには人を幸せにする機能は備わっていません

 

なんていうセリフには、あ、傷ついてるんだな、この男、と気づかされてしまう。

そして、こう吐露する。

 

この人に出会えた俺、世界で一番幸せだって思えた瞬間があった。

あったのに、自分で捨てちゃったよ。

 

そう、離婚した人たちにだって、幸せだった時はもちろんある(私もバツイチ)。

当然、この人と出会えてよかった、と心から思った時がある。

嫌なやつであればあるほど、そう思うもの。そもそも友達すらできないタイプなわけだし。だけど、やっぱり手放しちゃう。

離婚した時は、せいせいしたとか、正しい選択したとか、自分を正当化する。

だけど、ぜんっぜん立ち直れてないものなのだ。

 

2番目の夫の知り合いの女優・古木美玲(瀧内公美)は、バルコニーの夜景を見ながらひとりごちる。

 

素敵でしょ?

でもね、この景色見てると寂しくなるんだよね。

私と一緒。

ただキラキラ光ってるだけで、何が手に入るわけでもない。

何にも満たされない。

 

どんなにキラキラしている人でも、虚しさや、孤独や、寂しさを、抱えているかもしれない。

いや、もしかしたら、キラキラした分だけ闇は濃くなる。

 

人にはいろんな負け方がある。

キラキラしてて、かつ、負けてることもある。

だけど、

 

勝負の世界で大切なのは、負けた時になにをするか、どう過ごすか。

グッドルーザーになることなんだって。

 

負けたけど、どう生きるか。

いつも一番苦しい人の味方になってくれる、坂本脚本のやっぱりこれも真骨頂なんだな、と思う。

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いつかの東京タワー