フジテレビ(関テレ)で放送中の「大豆田とわ子と三人の元夫」が面白い。
「東京ラブストーリー」「MOTHER」「最高の離婚」「問題のあるレストラン」「カルテット」と、ず〜っと観続けている大好きな脚本家、坂元裕二さんの作品で、もちろん期待していたけど、やっぱりちょっと裏切られて、それがすごい。
坂元裕二らしくなくて逆に坂元裕二らしい、そんな作品のような気がしている。
フジテレビでよく書いている坂元裕二さんだけど、何かのインタビューで、「トレンディドラマが嫌だった」というようなことをおっしゃっていた記憶がある。
確かに、「最後の月9」として書いた「いつかこの恋を思い出して泣いてしまう」は、トレンディドラマの真逆をいく、底辺の若者たちを描いたものだった。
あれには、「さらば、月9、さらばトレンディドラマ」っていうメッセージを感じた。
世界の隅っこの人に寄り添いたいと、いつもおっしゃっている坂元裕二さん。
夢を叶えられなかった三流音楽家たちを描いた「カルテット」も、その流れだったと思う。
ところが、「大豆田とわ子〜」ときたらどうだろう。
主人公たちは、みんな才能があり、成功した都会人たちだ。
とわ子は、建築会社の女社長だし、1番目の夫は奥渋あたりで洒落たバーを経営し、2番目の夫はファッションカメラマン、3番目の夫はイケメン弁護士。
それぞれの職場も部屋も、ハイセンス。家具や雑貨も素敵。
当然、ファッションだって洗練されたものばかり。
フジテレビらしいトレンディドラマの王道のような演出…
あれ? 坂本さん、トレンディドラマに帰ってきましたか??という感じ。
なんでだろ?
と、疑問に思った。
それで、これはもちろん憶測なのだけど…
この変化は、あの悲しい芸能界の死によるものなんじゃないだろうか、と思った。
衝撃的だった有名俳優さんらの死。
あの時知ったのは、どんなに美しく才能があって、誰からも愛され成功した人でも、死んでしまいたくなるような苦しみを持っているのだ、ということだった。
そして、私たちは普段、そういう人たちの苦しみに、あまりにも無頓着だということだ。
もし、彼らが、飲み屋とかで、「死にたいよ」なんて言ったとしよう。
聞かされた友人は、取り合うだろうか?
もし私が友人だったら、きっと本当に能天気に、「何言ってんのよ」とか言うだろう。
あなたの悩みなんて、そんなの大したことあるはずない。
愚痴りたいならいいけどさ。
そのくらいにしか思わないだろうと思うのだ。
だけど、取るに足らないと思われた方はどうだろう。
ヘラヘラ笑って、(ああ、仕事でも笑って)、「いやいや、ごめん、落ち込むこともあってさ」なんて、大したことない風に笑って、笑って、笑って、そして孤独になって、追い詰まっていくのじゃないだろうか。
まさかの結末に、日本中の人が「気づかずにごめんなさい」という気持ちになったように思う。
少なくとも私は、あの時、そんな風に感じていた。
芸能界の人たちや制作現場の人たちは、なおさらだったんじゃないだろうか。
「大豆田とわ子〜」の第2話は、3番目の夫・中村慎森(岡田将生)の話だった。
弁護士でイケメンの彼は、オフィスで温泉まんじゅうを食べているみんなに、「お土産って意味あります?」とか言ってしまう嫌なやつだ。
ビジネスホテルに暮らし、冷たい夕飯ばかりで友達もいないけど、賢く合理的に生きていて、一人で大丈夫そうだ。
だけど…
洗濯機でご飯が炊けますか?
洗濯機で髪が乾かせますか?
人間にもそれぞれ機能がある
ボクには人を幸せにする機能は備わっていません
なんていうセリフには、あ、傷ついてるんだな、この男、と気づかされてしまう。
そして、こう吐露する。
この人に出会えた俺、世界で一番幸せだって思えた瞬間があった。
あったのに、自分で捨てちゃったよ。
そう、離婚した人たちにだって、幸せだった時はもちろんある(私もバツイチ)。
当然、この人と出会えてよかった、と心から思った時がある。
嫌なやつであればあるほど、そう思うもの。そもそも友達すらできないタイプなわけだし。だけど、やっぱり手放しちゃう。
離婚した時は、せいせいしたとか、正しい選択したとか、自分を正当化する。
だけど、ぜんっぜん立ち直れてないものなのだ。
2番目の夫の知り合いの女優・古木美玲(瀧内公美)は、バルコニーの夜景を見ながらひとりごちる。
素敵でしょ?
でもね、この景色見てると寂しくなるんだよね。
私と一緒。
ただキラキラ光ってるだけで、何が手に入るわけでもない。
何にも満たされない。
どんなにキラキラしている人でも、虚しさや、孤独や、寂しさを、抱えているかもしれない。
いや、もしかしたら、キラキラした分だけ闇は濃くなる。
人にはいろんな負け方がある。
キラキラしてて、かつ、負けてることもある。
だけど、
勝負の世界で大切なのは、負けた時になにをするか、どう過ごすか。
グッドルーザーになることなんだって。
負けたけど、どう生きるか。
いつも一番苦しい人の味方になってくれる、坂本脚本のやっぱりこれも真骨頂なんだな、と思う。